暑いのよりも熱いのの方が
         〜789女子高生シリーズ

         *YUN様砂幻様のところで連載されておいでの
          789女子高生設定をお借りしました。
 


地球温暖化もここに至れりとばかり、
昨年に負けず劣らず、この夏も半端ない猛暑となり。
あまりにも暑すぎてか、
お初のそれが聞こえてまだ日も浅いというに、
蝉の声さえ もはや聞こえぬほど。

 「………。」

そいや暑いのに弱かったなぁと。
細い眉をかすかに寄せて、
むずがりのお顔になったまま双眸を閉じている、
見慣れた愛らしい細おもてへ。
何とはなし、感慨深い想いとなる校医様で。
かつての大昔、
記憶だけもって来てしまった“前世”の彼らは、
その生の大半を大きな戦さの中で過ごした身であり。
特に、斬艦刀という戦闘機を用いた白兵戦専任の兵士たちは、
生身の体に宿る研ぎ澄まされた勘を生かしての、
機転の利いた戦いようを買われていたのはいいとして。
肺腑も凍るような極寒の成層圏にてその身をさらして戦った存在。
切れのある身動きには不利だろう、“寒さ”にばかり耐性がついた反動か。
戦域移動の狭間、補給なんぞで少しでも気温の高い地域に降り立つと、
陸に打ち上げられた魚でももっと生きがいいぞと思えたほど、
ぐでぇと萎えて、使いものにならなんだものだった。

 “………というのを見抜けた奴も、少なかったがな。”

今の“彼女”も、
慣れのない者には単なる昼寝にしか見えないかも知れぬ。
長いまつげの陰も可憐な、
柔らかな曲線を描くまぶたを、すべらかな頬へと軽く伏せ。
野ばらの蕾のような口許も品よく閉じての、
凛と冴えた白皙の顔容(かんばせ)もさして崩しはせぬまま。
日頃の“紅ばら様”という呼称も頷ける、
玲瓏透徹、クールな美少女ぶりを呈しておいでで。
具合が悪くなって担ぎ込まれたようには到底見えぬ。

 『榊せんせえ、大変。』
 『久蔵が貧血起こしました。』

今年の高校総体は長野だそうで、開会は7月29日。
部活の剣道で当たり前のように代表権を得ていた七郎次にしてみれば、
毎年これにまつわるすったもんだのせいで、
お盆までは落ち着いて休みを満喫出来ぬのだけれど、
だがだが 今年は都大会の決勝で惜しくも敗れてしまったそうで。
それでのこと、ちょっとだけ身が空いたとあって。
さあさ夏休みだ、バーゲンで流行のカジュアルな服も手に入れたし、
ホテルJのプールならそれほど混雑もしてないぞ、
他の場所でも、午前中の涼しいうちならば…と注意しつつ、
仲良し3人娘で待ち合わせることも多かったようなのだけれども。
帽子もかぶっていたし、
ミストの出るハンディファンとやらも、
ひなげしさん謹製、
羽根に凍らせたジェル内蔵のチョー涼感タイプのを持ってたし。
万全の体制でいたにもかかわらず、
水辺の木陰でのお喋り中、
紅ばらさんこと久蔵殿が ふっと意識を失ってしまったらしくって。
声もないままその場へ頽れ落ちたお友達だったのへ、

 『きゃあ、久蔵殿っ。』
 『しっかり。』

さすがに驚いたし、悲鳴こそ上げたが、
あたふたまではしなかった、あとの二人。
色違いでお揃いのドルマンスリーブのニットボレロを重ね着た、
実は水着姿だった3人娘だが。
そんな恰好だってことさえ意に介さぬまま、

 『シチさんシチさん、
  今日は兵庫せんせえ、ホテルに詰めてる。』

スマホでそこを真っ先に確認した
ひなげしさんこと平八も平八なら、

 『判った、運ぼう。』

くっきりしっかり迷いなく頷いた、
白百合さんこと七郎次も…以下同文。(おいおい)
時々、ホテルJの医務室の担当も
なさっておいでの榊せんせえだってこと、
久蔵以上にきっちりと把握しているお友達二人。
そのプールサイドでの急変へ、
慌てて駆けつけたホテルマンのお兄さんたちには“医務室へ”と指示を出し、
携帯で“せんせえは在室でしょうか?”と確認を取った周到さは、
相変わらずに行き届いており。

 “しっかり者なのが、助かるような…困りものなような。”

今回の場合は、彼女らにも特に他意は無かったのだろうが。
それでも、この医務室から出がてらに、
用もないのにいてもお邪魔でしょうし…と口にした二人とも、
ちょっぴり口許がほころんでいたのが、
この際は少々 気になってしまった兵庫だったらしく。

 「……………ん。」

小さく唸って細い吐息をついた気配がし、
おおとキャスターつきの椅子から身を起こせば。
バスタオルを折り畳んだだけの低いめの枕の上、
白いお顔によく映える、
ざくろ石のような赤い双眸がうっすらと開いていて。

 「  ……ひょーご?」
 「ああ。」

まだ半分ほど意識がゆらゆらしているものか、
視線が定まらぬお嬢様、
ぼんやりとした表情になっており。

  久し振りに貧血を起こしたようだが、
  暑さで食欲が落ちてでもいたか?

  〜〜〜。(否、否、否)

  どら……うん、熱もないな。
  少し汗ばんでいるようだが、
  この“あたり”だと化粧が落ちた訳ではないのだろう?

  ………。(頷、頷、頷)

  そうか…だとすると、
  もしかして寝不足か?

  ………。////(頷、頷、頷)

  テレビ観戦もほどほどにな。
  寝てないならそれなり、
  外出や待ち合わせも休みながらにしなさい。

  ………。////(頷、頷)

榊せんせえからのありがたい“注意事項”を聞きながら、
ふと、自分のいで立ちを見下ろした久蔵お嬢様。
まだ泳いではなかったので、
水着と言っても濡れてはなかったため、
そのまんまにされているのは、まま判らんでもないのだけれど。

 「………?」
 「何だ、着替えさせてほしかったのか?」

あいにくと今は女性の助手の方がおらんのでな。
昼休みが終わったら戻って来たのだが…とか何とか。
訊いてもないことまで言いながら、
そそくさと椅子から立ち上がった榊せんせえ。
お友達が置いていった、
着替え入りのトートバッグを取りに
デスクのほうへと向かったのだが、

 「………っ☆」

何にもないのにつまずき掛かった不審さは、
何を隠そうとしてのことやら。
そしてそして、

 「〜〜〜〜。///////」

中学生までなら着替えのお手伝いもしてくれたのにな。
バレエのややこしい衣装とか、
背中にやたらとボタンばっかりのワンピースとか。
そうそう初めてのブラだって、
背中のホック、言えば止めたり外したりしてくれたのに。
何でまた今日は、やたらと挙動不審なお兄さんなんだろかと。

 『…久蔵殿、そこまで拾っておきながら。』

何でもう一押しへ至りませんかねぇと、
後日に話を聞いて おいおいと呆れてしまった七郎次だったのへ。

 『まあまあまあ。
  シチさんだって
  勘兵衛さんがミニスカートへたじろいでるの、
  どこまで把握してやってます?』

こちらは平八が、
チッチッチッと人差し指をワイパーのように振りつつ、
やはり“おいおいおい”と呆れて見せて。

  他人の恋路で灯る信号ほど
  目ざとくも判りやすいものはない。

いじられたのは判るけど、
把握というのが意味するところは心から分かってないらしく。
何ですよそれ…と真っ赤になった七郎次だったのへ、

 『………?』

こちらさんも ますますと訳が判らんと、
ますます ますます首を傾げてしまった紅ばら様。
白百合さんの場合を自分の場合に置き換えてとかどうとか、
得意な数学の連立方程式のように応用させれば…とは
なかなか行かないみたいです。





      〜Fine〜  2012.07.27.


  *昼間の37度を耐えたのに、
   夜中の27度がどうしても耐えられなんだ昨夜は、
   サムライニッポン、
   男子サッカーの大金星のせいで落ち着けず、
   やっぱり寝不足になった困った晩でした。

   ところで、高校生の剣道世界では、
   高校総体と、全国選抜ともう1つ、
   玉竜旗(ぎょくりゅうき)全国高等学校剣道大会というのが、
   七月の下旬に福岡であるそうで。
   インターハイと時期がまともに重なっている辺りは、
   天皇杯と全国高校選手権大会の予選が重なりまくりの
   高校サッカーと同じと思ってもいいのでしょうか。
   おシチちゃんは、全国レベルの実力の持ち主としておりますが、
   昨年に引き続き、強敵との競り合いに負けちゃったらしいです。
   ただ、応援席に
   とある蓬髪の旦那がいたせいで気が散ったとする説もあり。
   いつぞやの木刀を毎朝振っている紅ばら様あたりが、
   果たし状を島田警部補へ突き付けるのも
   時間の問題かも知れません。(おいおい)

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